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高知地方裁判所 昭和40年(ワ)506号 判決 1968年3月12日

原告

田村昌子

ほか一名

被告

前田木材株式会社

主文

一、原告両名の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実

一、当事者の申立

原告は、

(1)  被告は、原告田村昌子に対し六六万七、六二〇円、原告田村恭昭に対し一一六万七、九四〇円、およびこれらに対する昭和四〇年一二月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

被告は、主文一、二項と同旨の判決を求めた。

二、原告の主張(請求原因)

(一)  訴外中西一雄は、昭和三九年五月三〇日午後二時四五分ごろ、大型貨物自動車、(以下特記する場合を除き、本件自動車と略称する)を運転し、時速約二五キロメートルで北進し、高知市大膳様町七三番地先交差点に差しかかり、同交差点を右折東進しようとした際、北より南に向け進行して来た亡田村恒喜(当時六一歳)の運転する第一種原動機付自転車の右側前部に自車の前部を衝突させ、同人を路上に転倒させ、よつて翌三一日午前一時ごろ高知市北奉公人町九六番地高橋診療所において、頭蓋底骨折により同人を死亡するに至らせた。

(二)(1)  被告は、製材、販売等を目的とする会社であるところ、本件自動車は被告の所有に属し、右運転手中西一雄および訴外坂田治喜は被告の従業員である。

仮に右坂田治喜が被告の使用人でないとしても、同人は、被告の利益、監督のもとに、右中西一雄をして被告の木材を運搬させていたものである。

そして右中西一雄は、修理のため本件自動車を運転中、本件事故を発生させたものである。

(2)  仮にそうでないとしても、被告は、右坂田治喜にいわゆる名義貸をしていたものである。

すなわち、本件自動車の車体には、「前田木材株式会社」と被告の商号が横書され、右坂田は数年前から被告の木材を運搬し、被告は、その空地を本件自動車の保管場所に提供し、その保管を右坂田に一任し、自動車損害賠償責任保険も被告名義で締結されていたものである。

(3)  したがつて、被告会社はいずれにしても、自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略称する)三条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

(三)  損害等について

(1)  財産的損害

(イ) 亡田村恒喜は、六一歳で、貸本業を営み毎月四万円の収入があつたので、その経費二万円を控除すると毎月の純利益は二万円で、同人は少なくとも一〇年間同額の利益を得ることができるので、中間利息を控除して計算すれば、同人の得べかりし利益は、一九〇万六、八〇〇円となる。

亡恒喜は、本件事故による死亡で、右の得べかりし利益を喪失したところ、原告昌子は右恒喜の妻、原告恭昭はその子で、法定の相続分により、原告昌子は六三万五、六〇〇円、同恭昭は一二七万一、二〇〇円を相続により承継した。

(ロ) 原告昌子は、右恒喜の死亡により、次のとおり支出し、この合計二〇万二〇円の損害を被つた。

葬儀費用 一六万七、八一〇円

病院費用 二万九、〇〇〇円

被害自転車の修理費用 三、二一〇円

(2)  慰謝料

原告昌子は、大正一三年ごろ亡恒喜と婚姻し、同人を助けて家業に従事していた者、原告恭昭は、徳島医科大学に入学し、インターンとして勤めている者であるが、亡恒喜の死亡により精神的苦痛を受けたので、その慰謝料は、原告両名につき各五〇万円が相当である。

(3)  ところで、原告らは、自動車損害賠償保険金として五〇万円、前記坂田から一〇〇万円、合計一五〇万円を受領しているから、原告両名につき各半分の七五万円を充当し、原告昌子については六六万七、六二〇円、原告恭昭については一一六万七、九四〇円の損害金を請求する。

三、被告の答弁

請求原因(一)の事実は知らない。

同(二)の事実中、被告が製材、販売等を目的とする会社であること、本件自動車の車体に被告会社名が記載されていたことは、いずれも認めるが、その他の事実は否認する。

本件事故は、被告から木材等の運搬を請負つていた訴外坂田治喜の従業員中西一雄が、右坂田所有の本件自動車を運転していた際に生じたものであり、被告に責任はない。

同(三)の事実は知らない。

四、証拠関係〔略〕

理由

一、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

訴外中西一雄は、昭和三九年五月三〇日午後二時四五分ごろ、大型貨物自動車(高一は一、八三五号、本件自動車)を運転し、時速約二五キロメートルで北進し、高知市大膳様町七三番地先交差点に差しかかり、同交差点を右折東進しようとした際、ちようど北より南に進行して来た亡田村恒喜(当時六一歳)の運転する第一種原動機付自転車の右側前部に自車の前部を衝突させ、同人を路上に転倒させ、よつて翌三一日午前一時ごろ高知市北奉公人町高橋診療所において、頭蓋底骨折により同人を死亡させるに至つたものである。

以上のとおり認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

二、被告会社の責任の有無について

(一)  被告が製材、販売等を営む会社であることは、当事者間に争いがない。

(二)  そして、自賠法三条に規定する運行供用者とは、自動車の運行について支配権を有し、かつ、その運行によつて享受する利益が自己に帰属する者をいうと解すべきである(最高昭和三九年一二月四日判決、例集一八巻一〇号二、〇四三頁参照)。

(三)  原告らは、まず、本件自動車は被告会社が所有し、訴外坂田治喜および前記中西一雄は被告会社の被用者であり、仮にそうでないとしても、右坂田治喜は、被告会社の監督のもとに右中西一雄をして被告会社の木材を運搬させていたものであると主張する。

(1)(イ)  なるほど、証人山崎巌の証言および原告恭昭(一、二回)、同昌子各本人尋問の結果には、前記坂田治喜、中西一雄および被告会社代表者前田秀雄において、原告らに対し、本件自動車は被告会社の所有に属し、右坂田治喜、中西一雄は被告会社の従業員である旨述べたとの供述部分がある。

(ロ)  また、〔証拠略〕を総合すると、本件自動車の車体には被告会社名が記入されていた(右の事実は当事者間に争いがない)こと、本件自動車の検査証および自動車登録原簿には、その使用者ないし使用本拠地として、それぞれ被告会社名および被告会社所在地(高知市鴨部六三六番地)が記載されていたし、本件自動車についての自動車損害賠償責任保険の保険契約者は、被告会社名義となつていたこと、本件事故発生後の昭和三九年六月二日、被告会社の代表取締役前田秀雄は、原告ら方を訪ね、原告らに対し、自己の名刺(甲一三号証)を差し出したうえ、香典として被告会社名義で一、〇〇〇円を提供したことがいずれも認められ、この認定に反する証拠はない。

(2)  しかし、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

本件自動車は、もと訴外高知いすず自動車株式会社(従前の商号、四国いすず自動車株式会社)の所有自動車であつたところ、被告会社は、昭和三六年一〇月二六日、右会社から、本件自動車を、代金の月賦完済に至るまで所有権は右高知いすず自動車株式会社に留保する特約で買い受け、昭和三九年二月ごろ、代金の支払を完了し、本件自動車の所有権を取得するに至つたが、自動車登録原簿等の所有者移転の登録手続を経由しなかつたので、本件自動車の検査証および自動車登録原簿には、その所有者として、いぜん、従前の右高知いすず自動車株式会社が各登載され、その使用者ないし使用本拠地として、前記認定のとおり、それぞれ被告会社名および被告会社所在地(高知市鴨部六三六番地)が記載されていたこと、前記坂田治喜は、仲介人の世話により被告会社を知るに至り、昭和三七年八月ごろ(右認定のとおり、当時本件自動車の所有権は前記高知いすず自動車株式会社に属していた)、右坂田治喜と被告会社との間に、(イ)被告会社は右坂田に本件自動車を代金一六五万円で売り渡す、(ロ)右坂田は、本件自動車により、優先的に被告会社の木材の運搬を請負う、(ハ)右代金の支払は、右坂田の運搬請負代金のうちから毎月六万円宛支払う、との契約が締結され、右坂田は、同契約に基づき、そのころ被告会社から本件自動車の引渡しを受け、引き続き高知市旭上町三三番地の自己の車庫に格納し、本件自動車の鍵も自己において保管し、結局本件自動車を直接自己において支配、管理したうえ、自己の責任において、本件自動車を運転して、主として被告会社の木材の運搬を請負つていたこと、しかし、本件自動車の自動車登録原簿および検査証には、前記認定のとおり、本件自動車の使用本拠地ないし使用者として、従前のまま前記被告会社所在地ないし被告会社名がそれぞれ記載され、変更の手続が採られずにおつたこと、そして、本件自動車の自動車登録原簿および検査証に基づき、前記認定のとおり、本件自動車の自動車損害賠償責任保険契約は被告会社名義をもつて締結されていたが、右坂田は、被告会社との話合いにより、右責任保険の保険料の外、本件自動車についての自動車税、ガソリン代および修理代等は、右坂田の負担において、同人が直接支払うか、あるいは被告会社においてまず立替え支払つておき、事後において右坂田の被告会社に対する毎月の請負代金から差し引き精算する方法が採られており、被告会社がその負担において出捐したことは全くなかつたこと、また右坂田は、前記認定のとおり、本件自動車の車体に被告会社名を表示していたが、これは、同人が前記契約に基づき優先的に被告会社の木材の運搬請負に従事していたことによるものであること、右坂田は、本件自動車による運送事業のため、昭和三九年二月ごろ、前記中西一雄を雇い入れ、運転手として使用し、同人に対する給料は右坂田において直接手渡して支払い、その指揮、監督も右坂田においてなし、被告会社が右中西を指揮、監督したことはなかつたこと、右中西を雇い入れた後、本件自動車は、右坂田の前記車庫の外、右中西の住所の高知市北本町三丁目一一八番地に格納され、またその鍵も、右坂田の外、右中西において保管することがあつたが、結局本件自動車は右坂田において支配、管理していたものであること、ところで、被告会社の仕事はしだいに少なくなつていたところ、被告会社から右坂田に対し、本件自動車の残代金を一時に支払い決済してもらいたいとの要請があり、事故当日の昭和三九年五月三〇日午前一〇時ごろ、右坂田と被告会社との間に、本件自動車の残代金五〇万円(残金四五万円および利息五万円の合計金額で、被告会社の立替え支払金額を合わせた七四万一、六一五円の内金)を手形で決済するとの取決めがなされ、その結果、右坂田は被告に対し、同人振出の同額の手形をもつて右残代金を支払い、同日時、本件自動車の所有権を取得するに至つたこと、ところが右坂田において本件自動車の登録名義の変更手続を採るいとまもなく、右中西は、本件自動車の修理材料を受け取るべく、本件自動車を運転し、高知市の訴外白田商事に赴く途中、同日午後二時四五分ごろ、前記認定のとおり、本件事故を発生させるに至つたこと、したがつて、本件事故当時、本件自動車を所有し、かつ、本件自動車の運行につき、これを支配、管理していた者は、右坂田であること、本件事故後、被告会社の代表取締役前田秀雄は、前記認定のとおり、原告らに対し、自己の名刺を渡し、かつ、被告会社名義をもつて香典一、〇〇〇円を提供しているが、これは、右坂田が従前において被告会社の木材を運搬していた事情を考慮したことによるものである。

以上のとおり認められる。

そうしてみると、本件事故当時、本件自動車は、右坂田が所有し、かつ、支配、管理していたものであり、本件事故運転手の右中西は、右坂田の請負事業のため、右坂田に雇われ、同人の指揮、監督に服していた者といわなければならない。

(3)  右認定の事実および〔証拠略〕に照らし、前記(1)、(イ)掲記の各供述は採用できないし、また、右認定の事実に照らし、前記(1)、(ロ)に認定の事実のみをもつては、原告らの前記主張を認めるに足りない。

その他原告らの立証および本件全証拠を検討しても、被告会社が本件自動車を保有、管理するとの原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(四)  次に原告らは、被告会社は、右坂田治喜に対し被告会社の名義を貸与していた者であるから、運行供用者としての責任があると主張する。

なるほど、本件自動車の車体に被告会社名が記入されていたこと、本件自動車の検査証および登録原簿に、その使用者ないし使用本拠地としてそれぞれ被告会社名および被告会社所在地が記載されていたこと、本件自動車の損害賠償責任の保険契約者が被告会社名義となつていたことは、いずれも前記(三)、(1)、(ロ)に認定のとおりである。

しかし、前記(三)、(2)に認定の事実および前掲証人島本嘉年の証言および被告代表者前田秀雄の尋問の結果に照らし、右認定の事実のみをもつては、原告ら主張の事実を認めるに足りない。

その他原告らの立証および本件全証拠を検討しても、原告ら主張の名板貸の事実を認めるに足りる証拠はない。

三、そうしてみると、原告らの主張は、その他の点を判断するまでもなく、理由がないといわなければならない。

よつて、原告両名の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小湊亥之助)

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